
AddictEsc.
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531 回視聴 ・ 22いいね ・ 2024/12/14
AddictEsc.-結局そうだったんだ。
▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃▃
結局そうだったんだ
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鏡を見る度に、違和感があった。
そこに映る顔は確かに私のもの。
髪型も、目の色も、表情も。
でも、何かが違う。
母は言っていた。
「あなたは特別な子」だと。
父は言っていた。
「無理をする必要はない」と。
友達は、時々不思議そうな顔をする。
「どうしてそんなに完璧なの?」と。
でも、私には分からなかった。
むしろ、自分の方が不完全だと感じていた。
心の中の空洞。
埋まらない違和感。
説明できない喪失感。
そして今日、
すべての謎が解けた。
研究所の古い資料を見つけたのは、偶然だった。
「プロジェクトE-7」
そこには、私の写真が添付されていた。
私の赤ちゃんの頃の。
そして、もう一人の赤ちゃんの。
DNA適合率99.9%
記憶転写率98.7%
感情同期率95.2%
数字の羅列の向こうに、真実が見えた。
私は、私ではなかった。
代替だった。
本物の私は、六歳で死んでいた。
両親の悲しみは深すぎた。
だから、私が作られた。
本物の記憶を持ち、
本物の感情を持ち、
本物のように生きる、私が。
鏡の中の違和感。
心の中の空洞。
すべては、ここに繋がっていた。
母の優しさも、
父の遠慮も、
友人たちの戸惑いも。
結局、そうだったんだ。
でも、不思議と、
胸が軽くなる。
これが私の本質。
これが私の真実。
完璧を求められる理由も、
それを達成できない理由も、
すべて、ここにあった。
資料の最後のページには、本物の私の写真があった。
病院のベッドで、笑っている。
死の直前まで、笑っていたという。
私は、その写真の笑顔を真似てみる。
まるで、鏡を見ているよう。
でも、違う。
これが本物で、
私が偽物。
...本当に、そうなのだろうか?
六年間の記憶は、確かに本物のもの。
でも、その後の十年は?
私が感じた喜びや、
私が流した涙や、
私が抱いた想いは?
それは誰のもの?
研究所の資料には、こうも書かれていた。
「意識の完全な複製に成功」
「オリジナルとの同期は完璧」
だとしたら、
私は私なのか、
それとも、本物の影なのか。
資料を燃やそうとした時、父が部屋に入ってきた。
「見つけたんだね」
その声には、悲しみも、怒りも、後悔もない。
ただ、諦めだけがあった。
「私は...私?」
やっと、この問いを口にする。
父は黙って私を見つめる。
その目に映る私は、本物の娘なのか、
それとも、ただのコピーなのか。
「あなたは、あなたよ」
父は静かに言う。
「私たちが間違っていたのは、
完璧なコピーを求めたこと」
そうか。
結局、そうだったんだ。
私は本物になろうとして、
本当の自分を見失っていた。
コピーであることに絶望するのではなく、
新しい私として生きていけばよかった。
窓の外を見る。
夕暮れの空が、赤く染まっている。
「お父さん」
「うん?」
「私ね、明日から料理を習いに行こうと思う」
父が驚いた顔をする。
本物の私は、料理が大嫌いだった。
「そう...それは、良いことね」
父の声が、少し震える。
ああ、結局そうだったんだ。
私は私でしかありえない。
たとえそれが、誰かのコピーだとしても。
(完)
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